イタリア紀行 - パドヴァとローマの大学を訪ねて


医学部教授 永島雅文(基礎医学部門 解剖学)

 
  2011年の6月末から約1週間、イタリアに出張しました。パドヴァ大学で開催された第11回欧州臨床解剖学会(European Association of Clinical Anatomists;EACA)に出席した後、サピエンザ・ローマ大学の解剖学研究室を訪問しました。


「解剖学者らの名前が付けられたパドヴァの街路」 

 パドヴァ大学は1222年に創立され、ボローニャ大学に次いで世界で2番目に古い歴史を誇ります。宿泊したベネチアからパドヴァ市までは電車で1時間弱の距離ですが、車窓から見える景色は石造りの古い家が点在するのどかな田園で、埼玉県の丘陵や北海道の酪農地帯を思い出すような懐かしい風景でした。

 パドヴァは豊かな緑の合間に威風堂々とした大聖堂や博物館が立ち並び、橋や道路までが威厳を感じさせる街並みでした。ボー・パレスという古色蒼然とした建物で参加登録すると、渡されたプログラムの中に、物理学の教授を務めたガリレオ・ガリレイや、ベルギーから留学したアンドレアス・ベザリウスが学んだ解剖学講堂(テアトロ・アナトミコと呼ばれる急峻な階段教室)がデザインされた絵葉書が入っていました。パドヴァ駅から学会会場の医学部解剖学研究室に向かう途中に「モルガーニ通り」とか「ファロッピオ通り」といった道路があり、公共施設に解剖学者の名前が遺されていることに感動しました。

            

「医学教育に果たす臨床解剖学の役割」

 この学会の会頭のラファエッリ・デ・カロ教授に挨拶すると、数年前の米国臨床解剖学会(AACA)で出会った私のことを覚えていて歓迎してくれました。今年はEACAと同時期にオハイオ州でAACAがあっため、参加者はヨーロッパとアジアが中心でした。プログラムをみると日本からは20人程が参加していましたが、その多くは臨床解剖研究会のメンバーでした。

 私の口演は「下肢1」というセッションで、「ファロッピオの部屋」と呼ばれる講堂に40人程が参加していました。
“X-ray interferometry imaging of the joint and cartilage,and its diagnostic potential”と題した発表で、関節の軟骨や靭帯を可視化するために開発された画像診断法を紹介し、関節リウマチの診断応用の可能性について考察しました。討論時間には座長のデュパル教授(フランス)と鑑別診断と撮像条件に関して有意義な議論ができました。このほか欧州の若手解剖学者たちが、自らの研究成果の、医学教育における意義を考察していたのが印象に残りました。熱心な討論の中で各国の臨床解剖学研究が医学教育の質を高めていることをあらためて実感できました。 


「中心市街地の大学都市 サピエンザ・ローマ大学」

 サピエンザ・ローマ大学では、新潟大学の牛木辰男教授から紹介していただいたステファニア・ノットラ准教授と事前にアポイントをとっていました。この大学は1303年に創立され、名称の「サピエンザ」は「ホモ・サピエンス」と同じ語源で「叡智」という意味です。日本語の地図には「大学都市」とあります。メインキャンパスはローマ・テルミニ駅から徒歩15分という中心地にありながら44万平米という面積で、学部の数が21、学生総数が14万人です。このうち医学部は6年制で1学年の学生は200人ということでした。目的の解剖学研究室は大学病院(ポリクリニコ)に隣接する閑静な敷地に建っていました。

 美しい前庭から建物に入り、10時頃ノットラ先生に対面しました。実習室や研究室など丁寧に案内してもらいましたが、コンピュータ端末や組織学標本などを備えた学生自習室があり、下級生の質問に答えるために数人の上級生がテューター(ティーチングアシスタント)役を務めているとのことでした。この大学ではかつてモッタ教授というカリスマ的な解剖学者が活躍していました。日本の研究者とも親交が深く、解剖学会で招待講演をされたこともありました。、残念ながら数年前に若くして急逝されました。現在はモッタ教授の未亡人が解剖学研究室の責任者をされているそうですが、この夫人に廊下で出会ったことは感動的でした。

             

「埼玉医大との学生・教員交流に期待」

 11時頃から約30分間、セミナー室でノットラ先生やモッタ夫人を含めて8人程の解剖学者に、私の研究(パドヴァの学会での発表内容)と教育活動(今年3月に横浜で開催されるはずだった解剖学会のシンポジウムの講演”Life-long learning of clinical anatomy in the dissectionlaboratory”)を紹介しました。

  皆とても熱心に私の話を聞いてくれ、臨床解剖学の教育について、また両国の医学教育制度の同異について、活発に意見交換しました。最後にノットラ先生と昼食をとりながら、サピエンザ・ローマ大学と埼玉医科大学の間で学生・教員の人的交流を発展させましょう、とふたりの希望が一致しました。私たちの出会いが、将来さらに豊かな果実を結ぶことを願っています。

 
(平成239月発行 埼玉医科大学医学教育センターニュース 第34号より転載)

 
 


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